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Kodomo コドモエ

web連載

広松由希子の今月の絵本

連載その60 2月のテーマ「ボール絵本」

ころがして、うけとめて、おいかけて、
なげて、うって、けって、とばして。

赤ちゃんのころから身近にあって、
大昔から世界中の子どもや大人が遊んでいる
おもちゃ以前のおもちゃ。
ツバサくんだけじゃない。
ボールは、みんなのともだちです。

絵本のなかでは……どんなふうに活躍してたかな。
どっちにころがるのか、どこにとんでいくのかわからない
ボール絵本と、ともだちになりましょう。

 

hiromatsu60


最初はゆるめのゴロから、ころころころ……
いやいや、どうして。『ぼーるが ころころ』は、
とぼけた顔して、かなり攻めてる赤ちゃん絵本。
赤ちゃんは赤ちゃんなりに、大人は大人なりに、
人によっていろんな風に楽しめるボールみたいな絵本です。

こいぬの大好きなボールが、
こいぬのもとから、ころころ逃げてゆきます。
「ころころ こんにちは りすさん」
といいながら、絵ではりすの上に乗っかっちゃったり。
野放図なボール。

ころころ出会って乗ったり降りたり。
ぷわぷわ波に浮かんだり、えっちら山に登ったり。
独立心旺盛なボール、どこまで旅するつもり?

1972年に出版された絵本の復刻版。
のどかな詩情ただようナンセンス。
大人にはとらえどころがないように思えても、
赤ちゃんのストライクゾーンって意外と広いですからね。

さ、赤ちゃんたち。
安心して気ままにころがっておいで。
そんなおおらかな気分で読んでみたい。

冒険の果て、帰ってきたボールを受けとめる
締めの台詞が効いていますよ。

ballgakoro

『ぼーるが ころころ』
岸田衿子/文 長新太/絵
ひかりのくに 本体800円+税 2006

 

 

もう1冊、攻めていくよー。カキーン!

表紙からしてアバンギャルドな『くさむら』です。
ビビッドな色と動き。
抽象と具象の混在する絵。
文は「ぼくは ボール。」とはじまります。

ビューンととんで、はずんで、
草の中につっこんで、
勢いよく駆け抜けます。

虫たちの間を抜け、
水をはねかし、カエルや鳥を驚かし、
いろんな草や花や生きものと
出会って別れて見て感じて……

すごい躍動感と生命感。
ボールという無機物の
「目」と「心」を通して感じる
くさむらのいのち。

読むほどに、みなぎる元気。
めくりながら、
自分の目と心が
「うおー」って叫びだすよ。

kusamura

『くさむら』
田島征三/作 偕成社
本体1500円+税 1989

 

 

次は、ちょっとくせ球絵本。
ポストモダン絵本作家といわれる
アンソニー・ブラウンの
『ボールのまじゅつしウィリー』をキャッチして。

小さなチンパンジーのウィリーは、サッカーが大好き。
でもサッカーシューズをもっていないし、
練習のときも、だれもパスしてくれません。
(チームのメンバーは、屈強なゴリラばかり)
選手にえらばれることもありません。

ところが、ある日の練習の帰り道、ウィリーは
サッカーのじょうずな少年チンパンジーと出会います。
しばらくいっしょに練習した後、
少年は自分のくつをぬいで、ウィリーにくれました。
その出会いから、ウィリーはめきめき変わっていくのです……。

話の筋だけを見れば、単純すぎる感じも。
小さくて弱いウィリーが幸運を手にして、強くなる話です。
でもブラウンの絵本の醍醐味は、絵を読むこと。

毛やしわの1本ずつ、くつの傷や縫い目まで
細部にこだわった絵は、眺めるだけでため息ものですが、
子どもの読者は、いろんなことに気づいて立ち止まるでしょう。

表紙のボールと、見返しの星空。
扉のバナナ。目覚まし時計。
いろんな画面にこっそり描かれている
サッカーボールを見つけるだけでも、うれしくなっちゃう。

ウィリーが出会った男の子の正体も、
注意深く絵を見ていくと、なんとなくわかってくるし、
ウィリーのジンクスを読み解くのも面白い。
わたしは各場面のフレームの変化が好き。

majutu

『ボールのまじゅつしウィリー』
アンソニー・ブラウン/作 久山太一/訳
評論社 本体1300円+税 1998

 

 

ラストに登場するのは、話題の新作。
新レーベル「らいおんbooks」から出た
『ぼーるとぼくとくも』ですよ。
クレヨン画伯の特異な(得意な)質感と遠近感で、
「ぼく」といっしょに空の上までかっとばしてくれます。

大きなボールを見つけたぼく。
しっかり両腕にかかえ、
おかあさんの自転車の後ろに乗っていたら、
坂道を降りる途中で、風に吹かれて
空に浮かび上がります……!

なんて解放感。
大人が気づいていない、ボールとぼくの自由な時間。
雲たちも寄ってきて、
いっしょにいろんなものになって
豪快に遊びまくります。

空の雲の見立て遊びは、
みんな経験があるでしょう。
でもそこに赤い丸が加わって、
自分も体ごと参加しちゃうのがうれしい。

どこまでも広くて青い空と
ふわふわなんにでもなれる雲に、
赤くて丸くてはずむボール。
そして豆粒みたいにちっちゃなぼく。

ああ、広いな。気持ちいいな。
大きく息を吸って、
遠く心を飛ばして、
思いっきり遊んでください。
なんどでも。

ぼくとボール、ずっとともだち。

bokutokumo

『ぼーるとぼくとくも』
加藤休ミ/作 風濤社
本体1400円+税 2017

 

・・・・・

 


先日見た「ナビ派」の展覧会で、
ヴァロットンの「ボール」という絵に釘付けになりました。
子どもはボールを追っているのか、影に追われているのか。
あらぬところに連れていかれる、ふしぎな絵。

今回のボール絵本も、
ぱっと見、単純そうで
一筋縄ではいかない絵本ばかりでしたね。

ともだちはともだちでも、
けっこうクセのあるともだちかもね。
(そんなところも好きだったりする)

 

 

web連載「広松由希子の今月の絵本
 

ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2012-15年ブックスタート選考委員。2013年、2015年BIB国際審査員。
著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、
「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や
2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、
訳書に『はしれ、トト!』(日本絵本賞翻訳絵本賞、いずれも文化出版局)
『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)など。
「MOE」本誌でも、世界の絵本を紹介中。
http://www.y-poche.com/

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