2017年1月6日

1月のテーマは「にわとり絵本」【広松由希子の今月の絵本・59】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

1月のテーマは「にわとり絵本」

コケコッコーと夜が明けて、年が明けました。
2017年酉年、ココぞと、にわとり絵本の出番です。
なにがあったっけなーと、本棚を眺めたら、
コッ、コッ、こんなに名作ぞろいとは……驚きました。

あれこれ悩んで絞り込んだ
とびきりケッコーなにわとり絵本、4冊を紹介します。

1月のテーマは「にわとり絵本」【広松由希子の今月の絵本・59】の画像1

まずはロシア生まれのうるわしのにわとり。
『うさぎとおんどりときつね』を見てよ。
20世紀ロシア(ソビエト)を代表する絵本作家、
レーベデフの描くにわとりのカッコイイこと!

1920年代に作られた、小さなお話が2羽(話)はいった絵本です。
1羽目が「うさぎとおんどりときつね」。
氷の家に住んでいたキツネは、自分の家が溶けちゃったものだから、
ウサギを追い出して、木の皮の家に移り住みます。

しくしく泣いているウサギのために、
勇ましいイヌやクマがキツネを追っぱらおうとしますが、
逆に脅され、しっぽを巻いて逃げてしまいます。
最後に登場するのが、
今年のヒーロー、かしこいおんどり。

ペンは剣よりも強し? ことばでキツネを打ち負かしちゃう。
うーん。本当の敵は、自分のなかの恐怖心なのか。

2羽目は、めんどりが出てくる「きんのたまご」という、ひとくち話。
「なかないで、おじいさん、なかないで、おばあさん。」
最後にめんどりが語ることばが、しみます。
やさしくきっぱり正しいめんどり。

欲をかかずに、今年は地道にコツコツ生きようと……
思ったり、思わなかったり。

1月のテーマは「にわとり絵本」【広松由希子の今月の絵本・59】の画像2

『うさぎとおんどりときつね』
レーベデフ/文・絵 うちだりさこ/訳
岩波書店 本体840円+税 1977

 

 

次はイギリスのめんどりを。
ハッチンスのデビュー作にして代表作、
『ロージーのおさんぽ』です。

原書が作られたのは、1960年代後半
黄色を主体にしたサイケな画面は、今も新鮮だし、
絵と文のギャップ、とぼけた間が絶妙なんです。

「めんどりの ロージーが おさんぽに おでかけ」
文は、ぼんやり半目のロージーが
農場を散歩する様子を、淡々と語るだけですが、
絵の中では、キツネがロージーを背後からねらっていますよ。

でも、とびかかろうとしては、
鼻面をぶつけたり、池に落ちたり。
勝手にさんざんな目にあい、まぬけなドラマを繰り広げているのです。

「あ、あぶない」とか「ダメーッ」とか、
思わず絵本に向かって声をかけたり、
ハラハラしたり、ゲラゲラ笑ったり。

ぼんやりうかつ、でも強運なめんどりのトリコになります。

1月のテーマは「にわとり絵本」【広松由希子の今月の絵本・59】の画像3

『ロージーのおさんぽ』
パット=ハッチンス/作 渡辺茂男/訳
偕成社 本体1000円+税 1975

 

 

次は「ぼくは王さまシリーズ」で知られる、
日本の黄金ペアの小さなシリーズ
「たまごのほん」より、ピックアップ。
『たたくと ぽん』です。

たまごがひとつ。
「ぽん」とたたいたら、
ひよこが生まれる……のは、予想通り。

ところが、
「ぽん」とひよこをたたいたら、
めんどりになりました……って、えっ、なに?!

「ぼん」とめんどりをたたいたら?

「ぼん ぼん ぼん
 ぽん ぽん ぽん
 ぽん ぽん ぽん」

いやー、もう、めでたくって、おかしくって

「わん つう
 わん つう」

なんと、とうとう……!
読者の予想のはるか上をいく衝撃のラスト。

ぶっとい輪郭線で、丸くはずむ形。
白と黄色の明るくおいしそうな配色。
文と絵のゆかいなリズム。

赤ちゃんもはしゃいじゃう、真正ナンセンス絵本です。
たまごから、ひよこ、にわとりまで、三世代で楽しめますね。

1月のテーマは「にわとり絵本」【広松由希子の今月の絵本・59】の画像4

『たたくと ぽん』
寺村輝夫/作 和歌山静子/絵
あかね書房 本体850円+税 2003

 

 

最後は、アメリカの新人絵本作家による、
にわとり絵本『ソーニャのめんどり』を。
昨年強く心に残った翻訳絵本の1冊ですが、
まず、にわとりの絵が、かわいい。

お父さんからふわふわのひよこ3羽をもらい、
育てはじめたソーニャ。
「わたしが おかあさんに なってあげるね」

せっせと世話をして、りっぱなめんどりになりました。
ソーニャへのごほうびに、卵も生んでくれました。
ところがある晩、
鳥小屋がキツネに襲われて、灰色のめんどりが連れ去られます。

かわいがっていた生き物が、捕食されるという、
突然の、厳しい別れ。
こみあげる悲しみと、怒り。

でも作者は、そこで白黒つけません。
にわとりや人間とおなじく、
キツネにもきっと子どもがいて、暮らしがあることに思いを寄せます。

いろんな画材をミックスし、コラージュして、
隅々まで気持ちを重ねて作られた画面を見ていると、
いろんな思いが渾然とわいてきます。

にわとりとおなじく、主人公の女の子が、いじらしく、等身大で、かわいい。
にわとりとおなじく、ソーニャの両親の肌の色もちがいます。

食べるいのち、食べられるいのち。
育てるもの、育てられるもの。その連なり。

1月のテーマは「にわとり絵本」【広松由希子の今月の絵本・59】の画像5

『ソーニャのめんどり』
フィービー・ウォール/作 なかがわちひろ/訳
くもん出版 本体1400円+税 2016

 

 


にわとり以外に、いのちを考える鳥の絵本といえば、
『やまばと』(菊池日出夫/作 のらっこ社 1994)
『あひる』(石川えりこ/作 くもん出版 2015)なども、おすすめ。

シンプルにゆかいなものから、じっくり悶々考えるものまで、
今年もトリドリの絵本を楽しみたいです。

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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