2015年7月27日

7月のテーマは「どろんこ絵本」【広松由希子の今月の絵本・44】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

7月のテーマは「どろんこ絵本」

バシャバシャ、水遊びの季節。
となると、水が砂や土といっしょになって……ジャーン!
どろんこ遊びも本番の季節。

大人になると、残念ながら
洗濯とか後始末が気になって、
諸手を上げて「どろんこウェルカム!」
とは言えなくなってしまうのですけれど。

実は、子ども時代のどろんこ好きが
体に生きているのかもしれません。

どろんこ大好きな大人たち(たぶん)が描いた
どろんこ絵本は、読むと、体がうずき出す感じ。
どろんどろんと、親子でどろんこ絵本にまみれましょう。

 

hiromatsu44

どろんこといえば、ハリー!
日本でも愛され続けて半世紀の『どろんこハリー』です。
黒いぶちの白い犬。
なんでも好きだけど、お風呂だけは大嫌い。
お湯を入れる音を聞きつけると、ブラシを庭に隠し、外へ抜け出します。

道路工事の現場で転げ回ったり、
原っぱで他の犬とおにごっこしたり、
どろんこ放題に遊んだあげく……白いぶちの黒い犬になってしまいます!

家に帰ると、自分が「ハリー」とわかってもらえず、四苦八苦。
アイデンティティの危機。
どうする、ハリー?

動きのある線で、ぐいぐい展開する物語。
感情移入せずにはいられない、朗らかでうかつなキャラクター。
白黒反転の明快なエピソード。
ドキドキの展開とハッピーエンド。
さすが、鉄板のベストセラー絵本です。

陽だまりのなか、どろんこの夢を見る。
反省なんて微塵もしない寝顔が、いいのね。
何度読んでも幸せ。

harry

『どろんこハリー』
ジーン・ジオン/文 マーガレット・ブロイ/絵
わたなべしげお/訳 福音館書店
本体1200円+税 1964

 

 

どろんこ愛といえば、このぶた。
寝るのも食べるのも大好きな『どろんここぶた』ですが、
なによりも好きなのは、
「やわらかーい どろんこの なかに、
すわったまま、しずんで ゆく ことでした。」

幸せなこぶたの暮らしに変化が。
ある日、飼い主のおばさんが、大掃除を思い立ち、
(そう、おばさんって、突然思い立っちゃうもの)
家の中だけでは飽き足らず、
ぶた小屋のどろんこまで、すっかりきれいにしてしまいます。

なんてこと!
こぶたは怒って、どろんこ求めて、家出しますが、
ちょうどいい具合の、すてきなどろんこは、なかなか見当たりません。

そして、やっとたどり着いた都会の「どろんこ」に、
ずずずーっと身を沈めたところ、
「へんだね、この どろんこは。」
まさかの、たいへんな騒ぎになってしまいます!

どろんこが、こぶたにとって、どんなに切実な問題か。
どろんこ好きの気持ちが、ひたひた伝わってくる訳語で、
ゆかいな絵物語にずずずーっと身をしずめて。

kobuta

『どろんここぶた』
アーノルド・ローベル/作
岸田衿子/訳 文化出版局
本体950円+税 1971

 

 

どろんこ好きは、ほかにもいっぱい。
『どろんこ!どろんこ!』では、
どろんこを見つけた動物たちが、1匹ずつどろに飛び込みます。
ちゃぽちゃぽ、にゅるにょろ、どろんでろん。
どっぷりどろに浴した後で、どろにまみれて出てきます。

どろ1色のページをめくると、
みんながどろ色のシルエットとなって現れる楽しさ。
思いがけない動物が出てきたり、シンプルだけど、単調じゃない。
絵本の匠・村上さんの破調のフックもにくい
遊び心たっぷりのどろんこ絵本です。

次はだれかな? めくっていくと、
一番意外などろんこ好きは、ラストでした!
けんちゃんがどろんこの絶頂で出会ったのは?

生物が永々と受け継いできた「どろんこ浴」のよろこび、
体が思い出すかもしれません。

dorodoro

『どろんこ! どろんこ!』
むらかみやすなり/作 講談社
本体1200円+税 2013

 

 

ここまで見てきても、
どろんこに目覚めないという人には、
奥の手!『どろんこどろちゃん』をどうぞ。

地面にきょろきょろ目玉が2個。
もっこり頭が、うーんと腕が、
出てきた出てきた、
「よっこらしょっ と、ぼく どろちゃん」

どろをこねて、指で塗ったような。
主人公は紛れもなく「どろんこ」です。

「ぼくの つくりかたは かんたんだよ。
つちを コップに 5はい。
みずを コップに 2はい。」

かたすぎると、ぼろぼろ。
やわらかすぎると、べちゃべちゃ。
どろんこ自ら指南する、どろんこの作り方、豪快な遊び方。
どろんこ絵本の決定版!

dorochan

『どろんこどろちゃん』
いとうひろし/作 ポプラ社
本体950円+税 2003


 

今年どろんこデビューの小さい人たちへ。
ファーストどろんこブックには
『どろんこ どろんこ!』(わたなべしげお/文 おおともやすお/絵 福音館書店)や
『こぐまちゃんのどろあそび』(わかやまけん/作 こぐま社)などオススメ。

どろんこ恐怖症気味の親子には、
『どろんこのおともだち』(バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳 ほるぷ出版)
は、いかが?
ビクトリア調のワンピースが似合うシャーロットと
フリフリのレースやリボンのドレスに身を包んだお人形ダリアの
どろんこ仲間ぶりが、心ほぐしてくれます。

 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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