2016年5月26日

5月のテーマは「ねむらない絵本」【広松由希子の今月の絵本・52】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

5月のテーマは「ねむらない絵本」

子どもが絵本を読んでもちっとも寝ない…
というお悩みを耳にして、あれ? と思います。

絵本=寝かしつけという図式は、どこからきたのかなあ。
寝る前に絵本を読む >>> 絵本を読むと眠くなる?
ちょっとちがうような気がします。

(寝かしつけようと思ってるな)と、
大人のたくらみに感づいたら、
子どもはかえって寝たくないと思う。
自分の子どもの頃を思い出すと、そうでした。

逆に、子どもは眠らなくて当たり前〜♪って思って、
親が楽しんで読んでたら、
案外安心して、眠っちゃったりするかもしれません。

今月は、あえて「ねむらない絵本」を選んでみましたよ。
夜によし、昼によし。
さあ、親子で楽しい絵本の時間を。

hiromatsu1608

『おやすみ みみずく』は、一見すると、おやすみ絵本。
原題も”GOOD-NIGHT, OWL !”です。

明るい昼間、木に止まったみみずくが
「あー ねむたい。」
と、うとうとしていると、

「はちが ぶん ぶん はね ならす。
みみずくは あー ねむたい。」

「りすが きのみを かり かり かじる。
みみずくは あー ねむたい。」

次々といろんな鳥たちもやってきて、
「かー かー かー」
「たららら たららら」
「きゅる きゅる きゅる」
ねむたいみみずくを、ちっとも寝かせてくれません。

「あー ねむたい」と繰り返すみみずくが、
いつ眠れるのかな、と思いながらページをめくります。
やっと夜になり、みんなが寝静まると……そうは問屋が卸さない!

鮮やかな色と構図。
生き生きにぎやかな擬音。
そして、目の覚めるどんでん返しに、
子どもも俄然、元気になって「もっかい!」と叫んじゃうかも。

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『おやすみみみずく』
パット=ハッチンス/作 渡辺茂男/訳
偕成社 本体1400円 1977

 

 

……叫んでもらったところで、読んじゃいましょうか。
はい、『もっかい!』(AGAIN!)です。

まず、表紙をめくって、扉をめくって……あれ??
扉が「もっかい」ある……。
うーん、シャレの効いた絵本と覚悟して、読み進めましょう。

ドラゴンの子どもが、寝る前に読み聞かせをねだります。
劇中劇ならぬ「本中本」も、寝るのがきらいなドラゴンの話。
本の中の読み聞かせが終わると、
当然「もっかい?」とねだります。

ねむたい親ドラゴンは、適当にはしょって、
微妙に話も作り変えて(わかる、わかる)
寝かしつけにかかります。
でも、ますます元気な子ドラゴンは、
「もっかい!」

ますますねむたい親ドラゴンは、思い切り読み飛ばしますが……
「もっかい! もっかい!」
怒りにかられた子ドラゴンは、なんと!
絵本界における、前代未聞の暴挙に出ます。

まさかのびっくりしかけ絵本。
裏表紙も、カバーも、奥付も、そしてカバーをはずした本体も、
遊び心満載で、発見が尽きません。
ハッチンスの”GOOD-NIGHT, OWL !”から40年。
イギリスらしいユーモアセンスを引き継いだ、注目の女性作家の現代絵本ですよ。

読者のちびドラゴンたちも大興奮して
またもや「もっかい!」の嵐かも。

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『もっかい!』
エミリー・グラヴェット/作 福本友美子/訳
フレーベル館 本体1200円 2014

 

 

「本中本」その2。
日本の新作『ちいさなりすのエメラルド』も、
寝る前に、お気に入りの赤い本を抱えています。

毎晩、本を読んでくれるのは、
うさぎのガーネット。
ねむたくなくても、大好きな人の声に耳を傾ければ、
とろんといい気持ちになってきますね。

ところが今夜は、ガーネットに急な仕事が入ってしまい、
読み聞かせが中断されました。
ひとりでもだいじょうぶと、送り出したエメラルド。
でも、ちっとも眠たくなりません。
「だれかに よんで もらわなくちゃ」

近所に出かけ、ひつじのおばさま、くまのおにいさま、
犬のおまわりさんなどつかまえては、
「このほん よんで くださらない?」
少しずつ読んでもらうのですが……

ていねいな口調が愛らしい。
隅々まで丹念に作り込まれた世界で、 
眠れぬ夜の散歩。
小さな冒険と、たっぷりの経験。
最後にやっぱり、大好きな人のそばで、いつもの安心。

ああ、寝かしつけとはちょっとちがう、
「おやすみ絵本」の極意がここにあるかも?

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『ちいさなりすのエメラルド』
そのだえり/作 文溪堂 本体1500円 2016

 

 

清少納言も言っているように、
夏は夜。月のころはさらなり。
寝つけないなら、起きて遊ぶも、またをかし。
『ムーン・ジャンパー』なら、
美しい夏の月下の遊びを堪能できます。

4人の子どもが庭に出て、
月光を浴びながら、はだしで踊り出します。

ほほにあたる夜風。
足の裏の感触。
ドキドキわくわくしながら 
月に向かってジャンプします。

『かいじゅうたちのいるところ』をはじめ、
20世紀が生んだ最高の絵本作家、モーリス・センダックの
ほれぼれ美しい画面を、新版の精巧な印刷で。

『木はいいなあ』のジャニス・メイ・ユードリーの
詩情あふれる文を、谷川さんの新訳で。

現実に呼び戻されて、眠りにつくまでの豊かな時間を
4人の子どもたちと堪能してください。

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『ムーン・ジャンパー』
ジャニス・メイ・ユードリー/文 モーリス・センダック/絵
谷川俊太郎/訳 本体1400円+税 偕成社 2014

 

 


たっぷり遊んで、空想巡らせて。
大人も子どもも、
眠る前に、楽しい絵本の時間をもてたら、いい気持ち。

いい夢みて、いい明日を迎えられますよう。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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