2015年10月26日

10月のテーマは「電気の絵本」【広松由希子の今月の絵本・47】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

10月のテーマは「電気の絵本」

日が短くなってきましたね。
気づくととっぷり日が暮れていて、ちょっとあわてます。

秋は夜長。
あかりをつけて、部屋でぬくぬく絵本を読みましょう。
そうして、いつもお世話になっている
「電気」について、考えを巡らせたりします。

ehon1510

大人にとっての当たり前が、
幼い子どもには、不思議のもと。
パチンとスイッチひとつでついたり消えたりする電気に、
赤ちゃんは興味津々です。

『くらいくらい』は、
ドキドキ楽しい2拍子のリズムの赤ちゃん絵本。
暗い部屋の中に誰かのシルエットが浮かんでいます。

「まっくら くら くら
くらーい くらい
でんきを つけて ちょうだい」

ページをめくると、

ついた!
ことりの ピーちゃんだ」

パッと明るくなって、正体がわかります。
暗いと見えなくて怖いけど、
顔が見えたら、にっこり。
とびきりゆかいな動物たちだもの。

電気の面白さをうまく生かした「いないいないばあ」。
スイッチにもいろんなタイプがあったり、
別の場所のスイッチと間違えて、つかなかったり。
ちょっとした変化が、赤ちゃん心を揺さぶります。

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『くらいくらい』
はせがわせつこ/文 やぎゅうげんいちろう/絵
福音館書店 本体800円+税 2006

 

 

ちょっと大きくなったら、
電気はあかりだけじゃなくて、
いろんな電化製品を動かしていること、
楽しいだけじゃなくて、
気をつけないとあぶないことも教わります。

『でんきのビリビリ』の「わたし」は、
どうやら作者と同じ関西在住。
「ビリビリ くるから、さわったら あかん!」
って、親にしかられます。

テレビ、パソコン、アイロンに電子レンジ。
コンセントはそこかしこ。
コードはうじゃうじゃ。

「いえの なかには ビリビリが ぎょうさん ぎょうさん。」
「さわったら あかんもんが、ぎょうさん ぎょうさん。
そやけど…」

わたしの疑問はふくらみます。
テレビを見ても、ミキサーのジュースを飲んでも、
ビリビリしないのに……ビリビリは「でんきのあな」にあるのかな?

ある日、地震がきて、停電を体験し、
「ビリビリ つくる ところが こわれ」たと聞いて、
ビリビリがどこから来てたのか、探すことにしました。

「あ! いえの そとにも ビリビリ はっけん!」

エアコンの室外機、自動販売機、信号機……そして、
ビリビリはずっと遠くから運ばれていたことに気づきます。

幼い子どもの目線、
そして子どもと暮らす親の目線で、感じる電気。
クネクネ、ぐにゃぐにゃした「ビリビリ」の線は、
うごめく生き物のような強烈な存在感です。

身近なビリビリを追いながら、
遠くに思いを馳せていく展開に説得力があります。
幼い子どもの科学の芽生えを受け止める、
暮らしに根づいた物語絵本です。

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『でんきのビリビリ』
こしだミカ/作・絵 そうえん社
本体1300円+税 2015

 

 

小学生くらいになって、
もっと電気のことを知りたいと思ったら、
『わたしのひかり』をどうぞ。

「夜空の星がおちてきたみたいに」きらきら光る町のあかり。
「あの町のあかりも、もともとは、わたしの ひかり なのですよ。」

「わたし」とは太陽のこと。
ん? 太陽光発電の話?
いえ、それだけじゃないんです。

太陽が毎日地球に光や熱を送っているおかげで、
そのエネルギーがさまざまなかたちで、
「電気」になっているんですね。

あたためられた水が蒸気になり、雨となり、川に注ぎ……ダムで水力発電に。
あたためられた空気が風を起こし……風車を回して風力発電に。
植物の光合成が、長い年月をかけて、火力発電につながるなんて、
正直、考えていませんでした。

詩情豊かな科学絵本。
スケールの大きな地球規模の自然の描写のなかに、
小さな黄色い光の粒々の、神々しいような美しさ。
太陽の恵みが、海にも、地上にも、地下にも届いていることを、
目が納得します。

巻末の4ページに渡る「この絵本について」では、
電気とエネルギーについて、さらに詳しく解説されています。
太陽が源になっていない原子力発電や地熱発電の存在、
それぞれの発電方法の短所、そして電気を使う心構えについても書かれているので、
大人はしっかり読みたいところ。

読み終わったら、ぜひ表紙のカバーをはずしてみてください。
太陽の光が、小さなわたしの部屋にも届いていることがわかる、
心にくい仕掛けです。

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『わたしのひかり』
モリー・バング/作 さくまゆみこ/訳
評論社 本体1400円+税 2010

 


 

今夜は、寝る前に自分のために、もう1冊。
『ひとつのねがい』(はまだひろすけ作 しまだ・しほ絵 理論社 2013)を読むことに。
町はずれに立つ、1本の年老いた「がい灯」が主人公。
100年ほど前(1919年初出)のぼんやりしたランプの灯りと、切ない願いを想います。

パチンとスタンドの電気を消して、
明日の太陽が昇るまで、ぐっすりおやすみなさい。

 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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